「大人になってからは、友達とお揃いで何か買うの恥ずかしくなったりするから。今のうちにやっとけば、後々いい思い出になるってモンだ」 純也さんの言い方には、妙な説得力がある。珠莉はピンときた。「……もしかして、叔父さまにも経験が?」「そりゃそうだろ。俺にだって、学生時代の思い出くらいあるさ。――あ、そうだ。それ、俺からプレゼントさせてくれないかな?」「「「えっ?」」」 思いがけない純也さんの提案に、三人の女子高生たちは一同面食らった。「そんな! いいですよ、純也さん! コレくらい、自分で買えますから」「そうですよ。そこまで気を遣わせちゃ悪いし」「いいからいいから。ここは唯一の大人に花を持たせなさい♪ じゃあ、会計してくる」 そう言って、品物を受け取った彼が手帳型のスマホケースから取り出したのは、一枚の黒光りするカード――。「ブラックカード……」 愛美は驚きのあまり、思考が止まってしまう。 ブラックカードは確か、年収が千五百万円だか二千万円だかある人にしか持てないカード。存在すること自体、都市伝説だと思っていたのに……。「純也さんって、とんでもないお金持ちなんだね……」 今更ながら、愛美が感心すれば。「当然でしょう? この私の親戚なんですものっ」 珠莉がなぜか、自分のことのようにふんぞり返る。……まあ、確かにその通りなんだけれど。「ハイハイ。誰もアンタの自慢なんか聞いてないから」 すかさず、さやかから鋭いツッコミが入った。「――はい、お待たせ。買ってきたよ」 しばらくして、会計を済ませた純也さんが、三つの小さな包みを持って、三人のもとに戻ってきた。「一つずつラッピングしてもらってたら、時間かかっちまった。――はい、愛美ちゃん」 彼は一人ずつに手渡していき、最後に愛美にも差し出した。「わぁ……。ありがとうございます!」 受け取った愛美は、顔を綻ばせた。これは、彼女が好きな人から初めてもらったプレゼントだ。――ただし、〝あしながおじさん〟から送られたお見舞いのフラワーボックスは別として。「わたし、男の人からプレゼントもらうの初めてで……。ちょうど先月お誕生日だったし」「そうだったんだ? 何日?」「四日です」「そっか。遅くなったけど、おめでとう。前もって知ってたら、こないだ寮に遊びに行った時、何かプレゼントを用意してたん
――四人が再び、竹下通りを散策していると……。「――あれ? さやかじゃん! それに愛美ちゃんも。こんなとこで何してんだ?」 やたらハイテンションな、若い男性の声がした。それも、珠莉と純也さんはともかく、あとの二人にはものすごく聞き覚えのある……。「おっ……、お兄ちゃん!」「治樹さん! お久しぶりです」「ようよう、お二人さん! だから、なんでここにいるんだっての。――あれ? そのコは初めて見る顔だな。さやかの友達?」 声の主はやっぱり、さやかの兄・治樹だった。(……そういえば治樹さんも、東京で一人暮らししてるって言ってたっけ) 愛美はふと思い出す。――それにしたって、何もこんなところで純也さんと鉢合わせしなくてもいいじゃない、と思った。(……まあ、偶然なんだろうけど)「まあ! さやかさんのお兄さまでいらっしゃいますの? 私はさやかさんと愛美さんの友人で、辺唐院珠莉と申します」 「へえ、君が珠莉ちゃんかぁ。さやかから話は聞いてるよ。……で? そのオッサンは誰?」「あたしたちは今日、この珠莉の叔父さんに招待されて、東京に遊びに来たの。これからミュージカル観に行って、ショッピングするんだ」 さやかはそう言いながら、右手で純也さんを差した。「……どうも。珠莉の叔父の、辺唐院純也です」 純也さんはなぜか、ブスッとしながら治樹さんに自己紹介した。〝オッサン〟呼ばわりされたことにカチンときているらしい。「へえ……、珠莉ちゃんの叔父さん? 歳いくつっすか?」「来月で三十だよ。つうか誰がオッサンだ」(純也さん、それ言っちゃったら大人げないです……) ムキになって治樹さんに食ってかかる純也さんに、愛美は心の中でこっそりツッコんだ。 そして、治樹さんは治樹さんで、愛美がチラチラ純也さんを見ていてピンときたらしい。愛美の好きな人が、一体誰なのか。(お願いだから治樹さん、ここで言わないで!) 愛美の想いなどお構いなしに、治樹さんと純也さんはしばし睨(にら)みあう。けれど、身長の高さと目(め)力(ぢから)の強さに圧倒されてか、すぐに治樹さんの方が睨むのを諦めた。「……すんません」「いや、こっちこそ大人げなかったね。すまない」 とりあえず、火花バチバチの事態はすぐに収まり、さやかがまた兄に同じ質問を繰り返す。「ところで、お兄ちゃんはなんでここ
「ああー、ナルホドね。だからお兄ちゃんの服、けっこう奇抜(キバツ)なヤツ多いんだ」「さやか、そこは個性的って言ってほしいな」「でも、治樹さんにはよく似合ってると思います。わたしは」「おおっ!? 愛美ちゃんは分かってくれるんだ? さすがはオレが惚れた女の子だぜ。お前とは大違いだな」「はぁっ!? お兄ちゃん、まだ愛美に未練あんの? 冬に秒でフラれたくせにさぁ」「うっさいわ」 街中で牧村兄妹の漫才が始まりかけたけれど、そこで終了の合図よろしく純也さんの咳払いが聞こえてきた。「……取り込み中、申し訳ないんだけど。もうすぐ開演時刻だし、そろそろ行こうか」「……あ、はーい……。とにかく! お兄ちゃん、もう愛美にちょっかい出さないでよねっ! 珠莉、愛美、行こっ」「うん。治樹さん、じゃあまた」「またね~、愛美ちゃん」「治樹さん、またどこかでお会いしましょうね」 兄に対して冷たいさやか、あくまで礼儀正しい愛美、なぜか治樹さんに対して愛想のいい珠莉の三人娘は、純也さんに連れられてミュージカルが上演される劇場まで歩いて行った。 * * * * 「――ゴメンねー、愛美。お兄ちゃん、まだ愛美のこと引きずってるみたいで……。みっともないよねー」 劇場のロビーで純也さんが受付を済ませている間に、さやかが愛美に謝った。 珠莉は受付カウンター横の売店で飲み物を買っているらしい。――ついでに気を利かせて、愛美たちの分も買ってきてくれるといいんだけれど。「ううん、いいよ。わたしも、あんなフり方して申し訳ないなって思ってたの。あんなにいい人なのに」「愛美……」「もちろん、わたしが好きなのは純也さん一人だけだよ。治樹さんは、わたしにとってはお兄ちゃんみたいなものかな」 純也さんは幸い離れたところにいるので、聞こえる心配はないだろうけれど。愛美はさやかだけに聞こえる小さな声で言った。「……そっかぁ。コレでお兄ちゃんが、キッパリ愛美のこと諦めてくれたらいいんだけどねー」「うん……。――あ、戻ってきた」 愛美とさやかが顔を上げると、純也さんと珠莉が二人揃って戻ってきた。珠莉は自分の分だけではなく、ちゃんと人数分の飲み物を持って。「お待たせ! もう中に入れるけど、どうする?」「叔父さま、コレ飲んでからでも遅くないんじゃありません? ――はい、どうぞ。全部オレ
――四人で仲良くオレンジジュースを飲みほした後、お目当ての演目が上演されるシアターに入り、座席に座った。「この作品は、過去に何回も再演されてる人気作でね。なかなかチケットが買えないことでも有名なんだ」「まさか純也さん、お金にもの言わせてチケット手に入れたんじゃ……?」「さやかちゃん! 純也さんはそんなことする人じゃないよ。そういうこと、一番嫌う人なんだから。ね、純也さん?」 お金持ち特権を濫用(らんよう)したんじゃないかと言うさやかを、愛美が小さな声でたしなめた。「もちろん、そんなことするワケないさ。ちゃんと正規のルートで買ったともさ」「ええ。叔父さまはウソがつけない人だもの、信じていいと思いますわ」「……分かった。姪のアンタがそう言うんなら」 ブーツ ……。「――あ、始まるよ」 愛美は初めて観るミュージカルにワクワクした。舞台上で繰り広げられるお芝居、歌、音楽。そして、キラキラした舞台装置……。 カーテンコールの時にはもう感動して、笑顔で大きな拍手を送っていた――。 * * * *「――さっきの舞台、スゴかったねー」 終演後、劇場の外に出た愛美は、一緒に歩いていたさやかとミュージカル鑑賞の感想を話していた。 珠莉はと言うと、愛美たちに聞こえないくらいのヒソヒソ声で、何やら叔父の純也さんと打ち合わせ中の様子。「うん。あたし、あの作品の原作読んだことあるけど、ああいう解釈もあるんだなぁって思った。やっぱり、ナマの演技は迫力違うよね」「原作あるんだ? わたし、読んだことないなぁ。この後買って帰ろうかな」 今日の舞台の原作は、偶然にも愛美が好きな作家の書いた長編小説らしい。――もしかしたら、純也さんはそれが理由でこの舞台に誘ったのかもしれない。(……なんてね。そう考えるのはちょっと都合よすぎかな)「――さて、お買いものタイムと参りましょうか」 いつの間にか、純也さんたちも二人に追いついていて、珠莉がやたら張り切って声を上げた。 お買いものといえば、毎回テンションが変わるのが彼女なのだ。お金に不自由していないせいか、根っからのショッピング狂のようである。「ハイハ~イ☆ とりあえず、古着屋さん回ってみる?」 とはいえ、さやかもショッピングはキライじゃないので、愛美が気(き)後(おく)れしない提案をしてくれた。「うん!
「じゃあみなさん、参りますわよ!」「おいおい。まさか珠莉、俺を荷物持ちでこき使うつもりじゃないだろうな?」 姪のあまりの張り切りように、この中で唯一の男性である純也さんがげんなりして訊ねる。「あら、私がそんなこと、叔父さまにさせると思って? ――ちょっとお耳を拝借します」 珠莉が叔父に歩み寄り、何やらゴショゴショと耳打ちし始めた。純也さんも「うん、うん」としきりに頷いている。(……? あの二人、何の相談してるんだろ?) 愛美は首を傾げる。思えばここ数週間、珠莉の様子がヘンだ。今日だってそう。何だかずっと、純也さんと二人でコソコソしている。「愛美、どしたの? ほら行くよ」「あ……、うん」 ――かくして、四人は竹下通りから表参道までを巡り、ショッピングを楽しんだ。……いや、楽しんでいたのは女子三人だけで、純也さんはほとんど何も買っていなかったけれど。「ふぅ……。いっぱい買っちゃったねー」 愛美も数軒の古着店を回り、夏物のワンピースやカットソー・スカートにデニムパンツ・スニーカーやサンダルなどを買いまくっていた。でもすべて中古品なので、新品を買うよりも格安で済んだ。 さやかも同じくらいの買いものをして、二人はすでに満足していたのだけれど……。「まだまだよ! 次はあそこのセレクトショップへ参りますわよ」 それ以上にドッサリ買いまくって、もう両手にいっぱいの荷物を持ち、それでも間に合わないので純也さんにまで紙袋を持たせている珠莉が、まだ買う気でいる。「「え~~~~~~~~っ!?」」 これには愛美とさやか、二人揃ってブーイングした。純也さんもウンザリ顔をしている。
「アンタ、まだ買うつもり!? いい加減にしなよぉ」「そうだよ。もうやめとけって」「わたしはいいよ。こんな高そうなお店、入る勇気ないし」「いいえ! さやかさん、参りましょう!」「え~~~~? あたし、ブランドものなんか興味ない――」 珠莉は迷惑がっているさやかをムリヤリ引っぱっていく。そしてなぜか、そのまま彼女にも耳打ちした。「ふんふん。な~る☆ オッケー、そういうことなら協力しましょ」(……? なに?) 事態がうまく呑み込めない愛美に、さやかがウィンクした。「じゃあ、あたしたち二人だけで行ってくるから。愛美は純也さんと好きなとこ回っといでよ」「純也叔父さま、愛美さんのことお願いしますね」「……え!? え!? 二人とも、ちょっと待ってよ!」「ああ、分かった」(…………えっ? 純也さんまで!? どうなってるの!?) ますますワケが分からなくなり、愛美は一人混乱している間に、純也さんと二人きりになった。「…………あっ、あの……?」 珠莉ちゃんと何か打ち合わせした? 純也さんはどうして当たり前のように残った? ――彼に訊きたいことはいくつもあるけれど、二人きりになってしまうと緊張してうまく言葉が出てこない。「さてと。愛美ちゃん、どこか行きたいところある?」「え……? えっと」 そんな愛美の心を知ってか知らずか、純也さんがしれっと質問してきた。……何だか、うまくはぐらかされた気がしなくもないけれど。 それでもとりあえず一生懸命考えを巡らせて、つい数十分前に思いついたことを言ってみる。「あ……、じゃあ……本屋さんに付き合ってもらえますか? 今日観てきたミュージカルの原作の小説があるらしいんで」「オッケー。じゃ、行こうか」「はいっ!」 二人はそのまま表参道を下り、東京メトロ表参道駅近くのビルの地下にある大型書店へ。(なんか、こうしてると恋人同士みたいだな……) 愛美はこっそりそう思う。ただ、まだ本当の恋人同士ではないので、手を繋いでいるだけで心臓の鼓動が早くなっているけれど。 何はともあれ、愛美はお目当ての小説の単行本をゲットし、二人は近くのベンチで休憩することにした。
「――はい、愛美ちゃん。カフェオレでよかったかな?」 純也さんは、途中の自動販売機で買ってきた冷たい缶コーヒーを愛美に差し出す。自販機ではクレジットカードなんて使えないので、もちろん小銭で買ったのだ。 愛美は紅茶も好きだけれど、カフェオレも好きなので、ありがたく受け取った。「ありがとうございます。いただきます」 プルタブを起こし、缶に口をつける。純也さんも同じものを買ったようだ。「――愛美ちゃん、お目当ての本、見つかってよかったね」「はい。純也さんは何も買われなかったんですか? 読書好きだっておっしゃってたのに」 書店で商品を購入したのは愛美だけで、純也さんは本を手に取るものの、結局何も買っていないのだ。「うん……。最近は仕事が忙しくてね、なかなか読む時間が取れないんだ。それに、このごろはどんな本を読んでも面白いって感じられなくなってる。昔は大好きだった本でもね」 悲しそうに、純也さんが答えて肩をすくめる。――大人になると、価値観が変わるというけれど。好きだったものまで好きじゃなくなるのは、とても悲しいことだ。「じゃあ、わたしが書きます。純也さんが読んで、『面白い』って思ってもらえるような小説を」「愛美ちゃん……」「あ、もちろん今すぐはムリですけど。小説家デビューして、本を出せるようになったら。その時は……、読んでくれますか?」 この時、愛美の中で大きな目標ができた。大好きな人に、自分が書いた本を読んでもらうこと。そして、読んだ後に「面白かったよ」って言ってもらうこと。目標ができた方が、夢を追ううえでも張り合いができる。「もちろん読むよ。楽しみに待ってる。約束だよ」「はい! お約束します」 この約束は、いつか必ず果たそうと愛美は決意した。「――それにしても、純也さんってよく分かんない人ですよね」「え……? 何が?」 唐突に話が飛び、純也さんは面食らった。「だって、ブラックカードでホイホイお買いものするような人が、ちゃんと小銭も持ち歩いてるんですもん。確か、交通系のICカードもスマホケースに入ってましたよね」「見てたのか。――うん、今日も電車で来た。僕はできるだけ、〝人並みの生活〟をするようにしてるんだ」「〝人並みの生活〟……?」 愛美は目を丸くした。〝人並み以上の生活〟ができている人が、何を言っているんだろう?「うー
「だって、事実だからさ。……あっ、ココだけの話だからね? 珠莉には言わないでほしいんだけど」「分かってます。わたし、口は堅いから大丈夫です」「よかった」 彼も一応は、言ってしまったことを少なからず悔(く)やんでいるらしい。愛美が「口が堅い」と聞いて、ホッとしたようだ。(口が堅いっていえば、珠莉ちゃんもだ) 彼女は絶対に、愛美に対して何か隠していることがある。でも、いつまで経っても打ち明けてはくれないのだ。――ことの発端(ほったん)は、約一ヶ月前に純也さんが寮を訪れたあの日。「――ところで純也さん。先月寮に遊びに来られた時、帰り際に珠莉ちゃんと二人で何話してたんですか?」「ん?」 とぼけようとしている純也さんに、愛美は畳みかける。「純也さん、わたしに何か隠してますよね?」「……ブッ!」 ズバリ問いただすと、純也さんは動揺したのか飲んでいたカフェオレを噴き出しそうになった。「あ、図星だ」「ゴホッ、ゴホッ……。いや、違うんだ。……確かに、大人になったら色々と秘密は増える。愛美ちゃんに隠してることも、あるといえばある……かな」 むせてしまった純也さんは必死に咳を止めると、それでも動揺を隠そうと弁解する。「何ですか? 隠してることって」「愛美ちゃんのこと、可愛いって思ってること……とか」「え…………。わたしが? 冗談でしょ?」 さっきまでの動揺はどこへやら、今度はサラッとキザなことを言ってのける純也さん。愛美は顔から火を噴きそうになるよりも、困惑した。(やっぱりこの人、よく分かんないや)「いや、冗談なんかじゃないよ。僕は冗談でこんなこと言わない」「あー…………、ハイ」 どうやら本心から出た言葉らしいと分かって、愛美は嬉しいやらむず痒いやらで、俯いてしまう。(コレって喜んでいいんだよね……?) 生まれてこのかた、男性からこんなことを言われたことがあまりないので(治樹さんにも言われたけれど、彼はチャラいので別として)、愛美はこれをどう捉えていいのか分からない。「……純也さんって、女性不信なんですよね? 珠莉ちゃんから聞いたことあるんですけど」「珠莉が? ……うん、まあ。〝不信〟とまではいかないけど、あんまり信用してはいないかな」「どうして? ――あ、答えたくなかったらいいです。ゴメンなさい」 あまり楽しい話題ではないし、純
* * * * というわけで、卒業式前の連休――というか厳密に言えば自由登校期間だけれど――の初日、二泊三日分の荷物を携えた愛美とさやかはJR長野駅の前に立っていた。「――愛美、あたしの分まで交通費全額出してもらっちゃって悪いね。でもよかったの?」「いいのいいの! わたし今、口座に大金入ってるから。ひとりじゃ使いきれないし、使い道も分かんないし」 冬休みに突然舞い込んできた二百万円というお金は、まだギリギリ高校生でしかも施設育ちの愛美にとってはとんでもない大金だった。作家として原稿料も振り込まれてくるけれど、さすがに百万円単位はケタが違う。印税でも入ってこない限り、そんな金額は目にすることがないと思っていた。「そっか、ありがとね」 多分、さやかもそんな大金はあまり見ないんじゃないだろうか。 そして、愛美に自分の分まで交通費を負担してもらったことを申し訳なく感じているだろうから、後で「立て替えてもらった分、返すよ」と言ってくるに違いない。その分を受け取るべきかどうか、愛美は迷っていた。 さやかの顔を立てるなら、素直に受け取るべきだろうけれど。愛美としては貸しにしているつもりはないので、返してもらうのも何か違う気がしているのだ。 それはきっと、もっと大きな金額を愛美に投資してくれている〝あしながおじさん〟=純也さんも同じなんだろうと愛美は思うのだけれど……。「――農園主の善三さんの車、もうすぐこっちに来るって。奥さんの多恵さんからメッセージ来てるよ」「そっか」 スマホに届いたメッセージを見せた愛美にさやかが頷いていると、二人の目の前に千藤農園の白いミニバンが停まった。助手席から多恵さんが降りてくる。「愛美ちゃん、お待たせしちゃってごめんなさいねぇ。――あら、そちらが電話で言ってたお友だちね?」「はい。牧村さやかちゃんです」「初めまして。愛美の大親友の牧村さやかです。今日から三日間、お世話になります」 さやかが礼儀正しく挨拶をすると、多恵さんはニコニコ笑いながら「こちらこそよろしく」と挨拶を返してくれた。「静かな場所で過ごしたくて、ここに来たいって言ったそうだけど、ウチもまあまあ賑やかよ。だからあまり落ち着かないかもしれないわねぇ」「いえいえ! 寮の食堂に比べたら全然静かだと思います。ね、愛美?」「うん、そうだね。多恵さん、ウ
――今年の学年末テストもバレンタインデーも終わり、卒業式が間近に迫った三月初旬。さやかが思いがけないことを愛美に言った。「卒業式前の連休、あたしも一緒に長野の千藤農園に行きたいな。愛美、執筆の息抜きに行きたいって言ってたじゃん」「えっ、わたしは別に構わないけど……。さやかちゃん、急にどうしたの?」 部屋の勉強スペースで執筆をしていた愛美は、キーボードを叩いていた手を止めて小首を傾げた。彼女が「千藤農園へ行きたい」なんて言ったことは今まで一度もなかったから。「いやぁ、愛美がいいところだって言ってたし、あたしも前から一度は行ってみたいと思ってたんだよね。純也さんのお母さん代わりだったっていう人にも会ってみたかったしさ。っていうかぶっちゃけ、最近食堂がうるさくてストレスなんだわ」「あー……、確かに。会話もままならない感じだもんね」 さやかも言ったとおり、最近〈双葉寮〉の食堂では特に夕食の時間、みんなが一斉におしゃべりをする声が大きくこだましてやかましいくらいである。隣り同士や向かい合って座っていても、話す時には手でメガホンを作って「おーい!」とやらなければ聞こえないのだ。そりゃあストレスにもなるだろう。「分かった、わたしから連絡取ってみるよ。この時期だと……、農園では夏野菜の苗を植え始めたりとかでちょっとずつ忙しくなるだろうから、一緒にお手伝いしようね。あと、純也さんと二人で行った場所とかも案内してあげる」「やった、ありがと! 野菜育てるお手伝いなら、ウチもおばあちゃんが家庭菜園やってるからあたしもよくやってたよ。じゃあ、連絡よろしくね」「うん」 愛美のスマホには、千藤農園の電話番号はもちろん多恵さんの携帯電話の番号も登録してある。愛美から連絡したら、多恵さんはびっくりしながらも喜んでくれるだろう。ましてや、今回は一人ではなく友だちも一人連れていくんだと言ったら、大喜びで歓迎してくれるだろう。「じゃあ、原稿がキリのいいところまで書けたら、さっそく多恵さんに電話してみよう」 という言葉どおり、愛美は執筆がひと段落ついたところで多恵さんの携帯に電話した。
* * * * 部活も引退したことで執筆時間を確保できるようになった愛美は、本格的に新作の執筆に取りかかることができるようになった。「――愛美、まだ書くの? あたしたち先に寝るよー」 〝十時消灯〟という寮の規則が廃止されたので、入浴後に勉強スペースの机にかじりついて一心不乱にノートパソコンのキーボードを叩き続けていた愛美に、さやかがあくび交じりに声をかけた。横では珠莉があくびを噛み殺している。「うん、もうちょっとだけ。電気はわたしが消しとくから、二人は先に寝てて」 本当に書きたいものを書く時、作家の筆は信じられないくらい乗るらしい。愛美もまさにそんな状態だった。「分かった。でも、明日も学校あるんだからあんまり夜ふかししないようにね。じゃあおやすみー」「夜ふかしは美容によろしくなくてよ。それじゃ、おやすみなさい」 親友らしく、気遣う口調で愛美に釘を刺してから、さやかと珠莉はそれぞれ寝室へ引っ込んでいった。「うん、おやすみ。――さて、今晩はあともうひと頑張り」 愛美は再びパソコンの画面に向き直り、タイピングを再開した。それから三十分ほど執筆を続け、キリのいいところまで書き終えたところで、タイピングの手を止めた。「……よし、今日はここまでで終わり。わたしも寝よう……」 勉強部屋の灯りを消し、寝室へスマホを持ち込んだ愛美は純也さんにメッセージを送った。 『部活も引退したので、今日からガッツリ新作の執筆始めました。 今度こそ、わたしの渾身の一作! 出版されたらぜひ純也さんにも読んでほしいです。 じゃあ、おやすみなさい』 送信するとすぐに既読がついて、返信が来た。『執筆ごくろうさま。 君の渾身の一作、俺もぜひ読んでみたいな。楽しみに待ってるよ。 でも、まだ学校の勉強もあるし、無理はしないように。 愛美ちゃん、おやすみ』「……純也さん、これって保護者としてのコメント? それとも恋人としてわたしのこと心配してくれてるの?」 愛美は思わずひとり首を傾げたけれど、どちらにしても、彼が愛美のことを気にかけてくれていることに違いはないので、「まあ、どっちでもいいや」と独りごちたのだった。 高校卒業まであと約二ヶ月。その間に、この小説の執筆はどこまで進められるだろう――?
――そして、高校生活最後の学期となる三学期が始まった。「――はい。じゃあ、今年度の短編小説コンテスト、大賞は二年生の村(むら)瀬(せ)あゆみさんの作品に決定ということで。以上で選考会を終わります。みんな、お疲れさまでした」 愛美は部長として、またこのコンテストの選考委員長として、ホワイトボードに書かれた最終候補作品のタイトルの横に赤の水性マーカーで丸印をつけてから言った。 (これでわたしも引退か……) 二年前にこのコンテストで大賞をもらい、当時の部長にスカウトされて二年生に親友してから入部したこの文芸部で、愛美はこの一年間部長を務めることになった。でも、プロの作家になれたのも、あの大賞受賞があってこそだと今なら思える。この部にはいい思い出しか残っていない。 ……と、愛美がしみじみ感慨にふけっていると――。「愛美先輩、今日まで部長、お疲れさまでした!」 労(ねぎら)いの言葉と共に、二年生の和田原絵梨奈から大きな花束が差し出された。見れば、他の三年生の部員たちもそれぞれ後輩から花束を受け取っている。 これはサプライズの引退セレモニーなんだと、愛美はそれでやっと気がついた。「わぁ、キレイなお花……。ありがとう、絵梨奈ちゃん! みんなも!」「愛美先輩とは同じ日に入部しましたけど、先輩は私にいつも親切にして下さいましたよね。だから、今度は私が愛美先輩みたいに後輩のみんなに親切にしていこうと思います。部長として」「えっ? ホントに絵梨奈ちゃん、わたしの後任で部長やってくれるの?」 いちばん親しくしていた後輩からの部長就任宣言に、愛美の声は思わず上ずった。「はい。ただ、正直私自身も務まる自信ありませんし、頼りないかもしれないので……。大学に上がってからも、時々先輩からアドバイスを頂いてもいいですか?」「もちろんだよ。わたしも部長就任を引き受けた時は『わたしに務まるのかな』ってあんまり自信なくて、後藤先輩とか、その前の北原部長に相談しながらどうにかやってきたの。だから絵梨奈ちゃんも、いつでも相談しに来てね。大歓迎だから」 「ホントですか!? ありがとうございます! でもいいのかなぁ? 愛美先輩はプロの作家先生だから、執筆のお仕事もあるでしょう?」「大丈夫だよ。むしろ、執筆にかかりっきりになる方が息が詰まりそうだから。絵梨奈ちゃんとおしゃべりして
それはともかく、わたしは園長先生から両親のお墓の場所を教えてもらって、クリスマス会の翌日、園長先生と二人でお墓参りに行ってきました。〈わかば園〉で聡美園長先生たちによくして頂いたこと、そのおかげで今横浜の全寮制の女子校に通ってること、そしてプロの作家になれたことを天国にいる両親にやっと報告できて、すごく嬉しかったです。 園長先生はさっそくわたしが寄付したお金を役立てて下さって、今年のクリスマス会のごちそうとケーキをグレードアップさせて下さいました。おかげで園の弟妹たちは大喜びしてくれました。まあ、ここのゴハンだって元々そんなにお粗末じゃなかったですけどね。 そしておじさま、今年もこの施設の子供たちのためにクリスマスプレゼントをドッサリ用意して下さってありがとう。もちろん、おじさまだけがお金を出して下さったわけじゃないでしょうけど。名前は出さなくても、わたしにはちゃんと分かってますから。 お正月には、施設のみんなで近くにある小さな神社へ初詣に行ってきました。やっぱりおみくじはなかったけど……。 もうすぐ三学期が始まるので、また寮に帰らないといけないのが名残惜しいです。やっぱり〈わかば園〉はわたしにとって実家でした。三年近く離れて戻ってきたら、ここで暮らしてた頃より居心地よく感じました。 三学期が始まったら、文芸部の短編小説コンテストの選考作業をもって文芸部部長も引退。そして卒業の日を待つのみです。わたしはその間に、〈わかば園〉を舞台にした新作の執筆に入ります。今度こそ出版まで漕ぎつけられるよう、そしておじさまやみんなにに読んでもらえるよう頑張って書きます! ここにいる間にもうプロットはでき上って、担当編集者さんにもメールでOKをもらってます。 では、残り少ない高校生活を楽しく有意義に過ごそうと思います。 かしこ一月六日 愛美』****
****『拝啓、あしながおじさん。 新年あけましておめでとうございます。おじさまはこの年末年始、どんなふうに過ごしてましたか? わたしは今年の冬休み、予定どおり山梨の〈わかば園〉で過ごしてます。新作の取材もしつつ、弟妹たちと一緒に遊んだり、勉強を見てあげたり。 施設にはリョウちゃん(今は藤(ふじ)井(い)涼介くん)も帰ってきてます。新しいお家に引き取られてからも、夏休みと冬休みには帰ってきてるんだそうです。向こうのご両親が「いいよ」って言ってくれてるらしくて。ホント、いい人たちに引き取ってもらえたなぁって思います。おじさま、ありがとう! お願いしててよかった! リョウちゃんは今、静岡のサッカーの強豪高校に通ってて、三年前よりサッカーの腕前もかなり上達してました。体つきも逞しくなってるけど、あの無邪気な笑顔は全然変わってなかった。「やっぱりリョウちゃんだ!」ってわたしも懐かしくなりました。 そして、わたしが今回いちばん知りたかったこと――両親がどうして死んでしまったのかも、聡美園長先生から話を聞かせてもらえました。 わたしの両親は十六年前の十二月、航空機の墜落事故で犠牲になってたんです。で、両親は事故が起きる二日前に、小学校時代の恩師だった聡美園長にまだ幼かったわたしを預けたらしいんです。親戚の法事に、どうしてもわたしを連れていけないから、って。でも、それが最後になっちゃったそうで……。 幸いにも両親の遺体は状態がよかったから、園長先生が身元
「わたしが作家になれたのも、その人のおかげなんだよ。だから、わたしも感謝してるの」「そっか。うん、めちゃめちゃいい人だよな。で、姉ちゃん。さっき言ってた『新作のための取材』ってどういうこと?」「あのね、新作はここを舞台にして書くつもりなの。ここにいた頃のわたしを主人公のモデルにして。……この施設がわたしの、作家としての原点だと思ってるから」 もし両親が生きていて、この施設で暮らすことがなかったとしたら、愛美は果たして「作家になりたい」という夢を抱いていただろうか……? そう思うと、やっぱり愛美の作家としての原点はここなのだと愛美は思うのだった。「オレも久しぶりに愛美姉ちゃんと過ごせて嬉しいよ。静岡に行って、高校に上がってから夏休みにもここに帰ってきてたけど、姉ちゃんがいないと淋しかったからさ。また一緒にサッカーの練習、付き合ってよ」「いいよ。でもリョウちゃん、サッカー上手くなってるからついて行けるかな……」 三年近く会っていない間に、彼のサッカーはグンと上達している。サッカーの強豪校に進学させてもらったからでもあると思うけれど、今の涼介に愛美はついて行けるかちょっと不安だ。「大丈夫だよ、一緒にボールを追いかけられるだけでオレは楽しいから」「そっか」 いちばん年齢の近かった涼介と再会できただけで、愛美はここを離れていた三年間という時間がまた巻き戻ったような気持ちになった。 * * * * その夜、〈わかば園〉では施設を卒業した愛美と涼介も参加してのクリスマス会が行われた。 今年のクリスマス会は、早速愛美が寄付したお金も使われたのか例年に増してケーキもごちそうも豪華になっていて、子供たちも大喜びだった。 そして、例年どおり〝あしながおじさん〟=田中太郎氏=純也さんを含む理事会から子供たちへのクリスマスプレゼントもどっさり用意されていて、「そうそう、これがここのクリスマスだったなぁ」と懐かしくなった。
* * * * 愛美は宿舎へ向かう前に、庭の方を通りかかった。サッカー少年の涼介が、今日もここでサッカーの練習をしているような気が下から。 今もこの施設に暮らす男の子たちに混ざって、高校生くらいの少年が一人、サッカーボールを追いかけながら走っている。愛美は彼の顔に、自分がよく知っている少年の面影を見た。「――あっ、やっぱりいた! お~い、リョウちゃーん!」 手を振りながら呼びかけると、驚きながらも手を振り返してくれた少年――小谷涼介は、身長が少し伸びて筋肉もついているけれど、顔は三年前とほとんど変わっていない。「愛美姉ちゃん! 久しぶり……っていうかなんでここに? ――あ、ちょっとごめん! お前ら、今日の練習はここまで。もうすぐ晩メシだから、ちゃんと手洗えよ!」 子供たちのコーチをしていたらしい涼介は、泥まみれになっている彼らに練習の終了を告げた。三年近くここに帰ってこない間に、彼もすっかり〝お兄さん〟になっていた。「リョウちゃん、元気そうだね。わたしもね、今年の冬休みの間はここで過ごすことにしたんだよ。新作のための取材も兼ねてるんだけど」「そっか。そういや愛美姉ちゃん、作家になったんだよな。おめでと。オレも本買ったよ。義父(とう)さんも義母(かあ)さんも、『この本は施設にいた頃のお姉ちゃんが書いたんだ』ってオレが言ったら二人とも買ってくれてさ。ウチにはあの本が三冊もあるんだぜ」「そうなんだ? リョウちゃん、すっかり新しいお家に馴染んでるみたいだね。よかった」 自分が〝あしながおじさん〟=純也さんにお願いして見つけてもらった涼介の養父母。彼がその家に馴染んでいるか、愛美はずっと心配だったけれど、彼の口ぶりからしてすっかり気に入っているようでホッとした。「うん。二人とも、オレにすごくよくしてくれてるよ。園長先生から聞いたんだけど、愛美姉ちゃんが理事の人に頼み込んで見つけてくれたんだよな? 姉ちゃん、ありがとな」「ううん、わたしはただお願いしただけで、実際に動いてくれたのはその理事の人だよ。わたしの時にも手を差し伸べてくれたから、リョウちゃんのことも何とかしてくれるかな……と思ってダメもとでお願いしたら、ちゃんとしてくれて。ホント、いい人でしょ?」 彼はお金を出してくれて終わりではなく、常に相手にとって最善の方法を見つけてくれる。 愛
愛美の答えを聞いた園長は、困ったような笑みを浮かべた。「……実はね、愛美ちゃん。辺唐院さんも今月の第一水曜日にここへいらした時、私におっしゃってたのよ。『どうやら彼女は、僕の正体に気づいているみたいです』って。あなたは頭のいい子だから、いずれはこうなると思ってらっしゃったみたいで。もしかしたら、あなたに本当のことを打ち明けるタイミングを計りかねている感じだったわ」「そう……なんですか? だとしたら、彼はいつごろわたしに打ち明けてくれるつもりなんだろう……?」 彼がタイミングを計っていることは間違いないだろうけれど。打ち明けると愛美と気まずくなるのを恐れて、なかなか打ち明けられないというのもあるのかもしれない。「――とにかく、今日から二週間はあなたも実家に帰ってきたつもりで、ここでお過ごしなさい。ちゃんと取材には応じてあげるから。あとは子供たちの相手をしてくれたり、事務作業を手伝ってくれると助かるけれど。それはあくまであなたの意思に任せるわね」「はい」「あなたはまた六号室で寝泊まりしてもらおうかしらね。みんな、愛美お姉ちゃんと一緒に寝るのを楽しみにしてるから」「分かりました。六号室かぁ……、懐かしいなぁ」 愛美はここを巣立っていくまでずっと、六号室で五人の幼い弟妹たちと過ごしていたのだ。あれから三年近く経って、あの子たちも大きくなったことだろう。幼稚園の年長組だった子も、小学三年生になっているはずだ。「あ、あとね、涼介君も今、施設に帰ってきてるのよ。引き取られた先のご両親が、夏休みと冬休みにはここに帰ってきてもいいっておっしゃったらしくて」「えっ、リョウちゃんも? 嬉しいな」「ええ。今夜はクリスマス会をやるから、愛美ちゃんも参加してね。涼介君も参加したいって言ってたから。お正月にはみんなでまた近くの神社へ初詣に行きましょうね」「はい!」 まるで自分の祖母のような園長とのやり取りで、愛美はあっという間に三年前に引き戻されたような懐かしい気持ちになった。このアットホームな雰囲気が、この園での生活が楽しいと感じたいちばんの理由だった。「――そういえば、その服の感じも懐かしいわね。愛美ちゃん、ここにいた頃もよくブルーのギンガムチェックの服を着てた憶えがあるわ」 園長はふと、愛美が着ているブルーのギンガムチェックのシャツを眺めて目を細める。ボト